高松高等裁判所 昭和35年(く)14号 決定 1960年10月20日
少年 E(昭一九・一・二五生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、要するに、
(一) 原決定認定の第一事実の(2)から(4)までの恐喝の各事実については、少年は取調官に対して右認定のような所為をしたと虚偽の供述をしたにすぎないもので、真実そのような所為をなしたるものではない。
(二) 原決定認定の第一事実の(1)の恐喝の事実については、少年は共犯者○丸○が被害者の学生二人を呼んでこいというので同人らを呼んで来たにすぎないものであり、同第二の各窃盗の事実については、窃取した品物は全部被害者に返している。
(三) 今後は両親の下で真面目に農業を手伝うことを決意している。というような諸事情があるのに、少年を特別少年院に送致する旨決定した原決定は、著しく不当なものであるから、これを取消して更に寛大な処分を求めるというにある。
よつて一件記録を精査するに、原決定の認定した少年の非行事実中の第一の(2)の少年は○田○及び○丸○と共謀の上昭和三五年八月初旬頃○○市○町○丁目○○市駅前付近路上において氏名不詳の男子高校生から腕時計一個(時価四、〇〇〇円位)を喝取したとの事実、同じく第一の(3)の少年は右両名と共謀の上右同日右同所付近で氏名不詳の男子高校生から現金五三〇円及び腕時計一個(時価四、〇〇〇円位)を喝取したとの事実、同じく第一の(4)の少年は○丸○と共謀の上同月初旬頃同市○○町○○○自動車○○営業所前付近路上において氏名不詳の男(一九年位)から現金五〇〇円を喝取したとの事実については、少年の司法警察員に対する昭和三五年八月一八日付の供述調書中に右事実に添う供述の記載があるのと、原審における審判調書中に、原審審判廷において裁判官が少年に対し少年事件送致書及び関係書類追送書に記載された右各事実を読聞かせたのに対し少年がいずれも間違いありませんと陳述したとの記載のある以外には、右事実の認定に供し得べき証拠資料は全くない。このような少年の自白のみでは、原決定が認定した前記三個の恐喝の事実を認定するに充分でない(少年保護事件における犯罪事実の認定には刑事訴訟法に定める厳格な証拠上の法則を用いなくてもよいが、単に少年の自白のみでその犯罪事実を認定するが如きことは、自白者が少年であるが故に殊更に慎重でなければならぬと考える)。その他に右各恐喝の事実を認めるべき証拠がないから、結局これらの各恐喝の事実を認定することはできず、これを認定した原決定には事実誤認があるというべきである。
しかしながら、原決定が認定した右以外の各非行事実は、一件記録によると充分認定することができる。そうして記録に現れている少年の経歴、過去の非行歴、殊に昭和三五年四月四日四国少年院仮退院後の少年の行状、交友関係、保護者の保護能力及び少年の年令、性格、知能、積神状態等を勘案するときには、少年を特別少年院に収容して強制教育する以外には、少年を矯正するための適切な方法を発見することはできない。
そうして、前記のような原決定における事実誤認、その他抗告理由にいうような諸事情を考慮しても、少年を特別少年院に送致した原決定は、相当なものという外ない。従つて前記事実誤認は原決定に影響を及ぼすものでなく、その他の事情を考慮しても原決定を変更すべき理由は存在しないから、本件抗告はその理由なきに帰する。
よつて少年法第三三条第一項後段により本件抗告を棄却することとし、主文の通り決定する。
(裁判長裁判官 加藤謙二 裁判官 小川豪 裁判官 石井玄)